日中両国に拠点を置き、医療・医薬分野の中国事業を総合的に支援するモリモト医薬(盛本修司社長)は9日、日系製薬会社などが共同で出資する「共有製薬工場」を、中国の上海に設置する構想を発表した。日系バイオ企業が現地子会社を通じて2005年に上海に設立し、本稼働を間近に控えて売却することになった製薬工場を、子会社ごと買い取って活用する構想。モリモト医薬も含め、3~4社から合計10億円前後の共同出資が得られれば、4月末頃までに買い取る。中国市場への本格進出に必要な製造拠点や、日本市場に向けた製造拠点としての活用を見込み、出資を募っている。
工場は、上海市内から南西42kmの松江地区にある。敷地内には製造棟、管理用事務棟、倉庫が完成しており、延床面積は1万3570m2、土地面積は1万2653m2。製造棟の2階にはクリーンルームがあり、中国市場向けの医薬品(錠剤)を年間2億錠製造できる設備がある。医薬品製造許可書は取得済み。錠剤を製造したデータをもとに現在、GMPの認可を申請している。
工場を所有する日系バイオ企業から売却の相談を受けたモリモト医薬が、工場の共有化にはニーズがあると判断し、事業構想を立案した。
中国市場に本格的に進出し、より多くの利益を得るには、現地企業に製造や販売を委託するのではなく、自ら製造拠点を確保した上で、販売に深く関わる必要がある。しかし、単独で工場を設置するのは多額の費用が必要で、投資の回収までに長期間を要することから、二の足を踏む日系企業は少なくなかった。
工場の共有化によって、特に中小規模の会社にとって、少額の投資で中国に製造拠点を確保できることが最大のメリットだ。倉庫や試験室、試験装置、現行の錠剤製造設備、スタッフを共有活用できるため、生産コストも低く抑えられる。日本の高品質な管理ノウハウも持ち込める。
このほか、低コストで製造可能な利点を生かし、日本市場向け製品の製造委託先として活用するという選択肢もある。ただし、この場合は、製造設備を新たに導入する必要がある。
製造棟の3階は未着工で空いており、共同で出資する各社のニーズに応じて、必要な製造設備を導入できる。新設した製造ラインを、複数の会社で共同利用することも可能だ。
医療用医薬品だけでなく、OTCや健康食品の製造も想定しており、幅広く出資先を求めている。共同出資先には別途、運用コストを求める一方、利益が出れば配分する。既に数社から良好な反応があるという。
一方、4階建の管理用事務棟の一部は、モリモト医薬が運営する「チャイナビジネス・インキュベーションセンター」(CBIC)として、中国での事業を志す個人や企業に無償で提供する。中国の法律や商慣習について支援を行ったり、各種研修会や交流会を開催したりし、事業化を支援する。セミナーや展示会の会場としても活用する。
共同出資は合計で7~15億円ほどを想定。それに達すれば子会社を買い取る。当面は現行の社名をそのまま引き継ぐが、将来は「全日本医薬有限公司」(仮称)などに改称する予定だ。
10~20人のスタッフで工場の運用を始め、順調にいけば、日本向け医薬品や中国市場向け健康食品の出荷は、年内にも開始できるという。中国市場向けの医療用医薬品は、許認可を得て出荷に至るまでは2年以上を要する見通し。
4月末までに共同出資がまとまらず、買収できなければ、競売物件となって他者の手に渡る可能性が高いため、共同出資先の確保を急いでいる。17日に大阪で説明会を開催し、4月には現地への視察ツアーを計画している。
薬事日報